理学療法士 副主任 種市 隆司
がん患者様を対象にしたリハビリは2010年に診療報酬で認められるようになり、治療過程における「障害」に対してのリハビリとして見直され始めました。
当院では2015年5月より、入院されているがん患者様を対象とするリハビリテーションを開始しました。認識は徐々に浸透しつつありますが、がんを対象にしたリハビリは、どのようなことを行うのかイメージすることが難しいかもしれません。
リハビリとは、脳卒中や骨折などによって障害を抱えた方に対し、運動機能の回復、日常生活に必要な動作の獲得を目指すものとイメージされるかもしれませんが、がんに対しても同じようにさまざまな効果を期待できます。
がんの療養におけるリハビリは、患者様の回復力を高め、残っている能力を維持・向上させ、今までと変わらない生活を取り戻すことを支援することによって、生活の質(QOL:クオリティー・オブ・ライフ)を向上する考え方に基づいて行われます。
がんになると、がんそのものや治療に伴う後遺症や副作用などによって、患者様はさまざまな身体的・心理的な障害を受けます。
がんリハビリテーションは、がんと診断されたときから、障害の予防や緩和、あるいは日常生活に必要な動作(起き上がる・立つ・歩く・トイレ動作・段差を昇るなど)の回復や維持を目的に、あらゆる時期や状況に応じて対応していきます。(図1)
例えばこんな場合に…
手術後の合併症予防、体力回復、乳がん術後の肩関節拘縮予防、リンパ浮腫予防、化学療法後の体力低下の改善、長期間安静による日常生活動作能力の低下の改善、リンパ浮腫の軽減、骨転移に対する動作指導など
がんそのものによる痛みや食欲低下、息苦しさ、だるさによって寝たきりになったり、手術や抗がん剤治療、放射線治療などを受けることによって、身体の機能が落ちたり損なわれたりすることがあります。このような状況になったときに、「がんになったのだから仕方がない」とあきらめる人が多いかもしれません。
また、さまざまな障害を抱えることによって日常生活に支障をきたし、家事や仕事、学業などへの復帰も難しくなります。そうなると、QOLも著しく低下してしまいます。
しかし、がんになってもこれまでどおりの生活をできるだけ維持し、自分らしく過ごすことは可能です。
そのために欠かせないのが「がんリハビリテーション」です。
当院においても、消化器がん・乳がんの手術後の体力の回復や抗がん剤治療後、日常生活に支障をきたしてしまった患者様に、日常生活動作の再獲得を目指し、医師、看護師、社会福祉士、緩和ケアチームなど様々な職種との協力のもと、患者様、ご家族を支援する一端となれるよう取り組んでいます。