小児科 池田 久剛
当院の小児科にも入院する患者様が増えている RS ウイルス感染症。乳幼児が罹ると、「細気管支炎」を発症し、呼吸困難を起こすことがあるため注意が必要です。
RSウイルス感染症の症状、治療、予防法について説明します。
RSウイルスのRSは「Respiratory Syncytial(=呼吸器の合胞体)」の略。ウイルスが感染すると、呼吸器の細胞が腫れて1つになるため、そう名づけられました。
「パラミクソウイルス科ニューモウイルス属」のウイルスで、麻疹ウイルスなどと同属。ノドや気管支などの呼吸器に感染します。
2歳までの乳幼児がほぼ 100%感染すると言われているかなり感染力が強いウイルスと言えます。
RSウイルスの感染経路・潜伏期間
・感染経路 …… 飛沫感染、手指を介した接触感染。汚染されたカウンターでは 6 時間、手についたウイルスは約30分感染する力を持っているため最初に鼻から感染することが多いのです。
・潜伏期間 …… 感染してから発症するまでの潜伏期間は2~8日。典型的には4~6日です。
・感染期間 …… ウイルス排泄期間が7~21日と長いため、感染が広がりやすいのです。
RSウイルス感染で起こる細気管支炎
1歳ぐらいまでの小さな子ども、特に、低出生体重児や心臓に病気を持っている子どもの場合、細気管支炎を起こして重症化しやすいです。
細気管支炎では38.5℃以上の発熱は少ないですが、咳がひどいのが特徴です。 症状は、水のような鼻水、鼻づまりから始まり、次第に、ひどい咳、むせるような咳 、呼吸数が多くなる多呼吸や肋骨の下がへこむ陥没呼吸などの呼吸困難の症状が悪化し、呼吸をさぼり突然死につながる無呼吸を起こし重症化することがあります。小学生以上の学童や成人の場合、RSウイルスは鼻から感染し、風邪程度でおさまる事が多いです。 時に、気管支炎を起こし、喘鳴を起こす気管支炎や肺炎を起こすこともあります。その場合は、38℃以上の発熱が5日程度続いたりします。 |
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肺の外側に近い部分が細気管支です |
RSウイルス感染症の検査・診断法
RSウイルス感染かどうかの診断は、鼻に綿棒を入れてこすり、RSウイルスを検出して行います。ちょうどインフルエンザの検査に似ていて、結果が出るまでは30分程度。
しかし、この検査は1歳未満の乳幼児か入院している患児しか保険では認められておらず、医療機関で外来検査の場合は医療機関が負担していることが多く、これについては改善が要望されています。
RSウイルス感染症の治療
RSウイルスに感染した場合、特効薬はありません。呼吸が苦しくなり眠れなくなったり、ミルクの飲みが悪い場合は、入院して輸液をしたりします。
咳に対しては、気管支を拡げる薬、痰を切りやすくする薬、炎症を抑えるステロイドが使われたりします。
呼吸状態が悪くなると、人工呼吸器をつけて、呼吸を助けてあげる必要もあります。特に、早く生まれた低出生体重児や心臓に病気を持っている子どもの場合は重症化するので、予防が大切なため、パリビズマブ ( シナジス )という薬が使われています。
パリビズマブ ( シナジス ) は、RSウイルス粒子表面のあるタンパク質を特異的に結合する免疫グロブリンで非常に高価な薬です。3kgの赤ちゃんで使うと1回約8万円弱にもなるため、残念ながら当院では現在施行できません。
RSウイルス感染の流行期の前に、1ヶ月毎に5回筋肉に注射します。
RSウイルス感染症の予防法
1歳以下の乳児にいかに感染させないようにするかが重要なポイントになります。
そのためには、家族全員で手洗いをしましょう。そして、親子ともに、風邪をひいた人との接触を避けます。
特に、RSウイルス流行期(10月頃から2月頃)には、1歳以下の乳児は次のような場所、行動を避けましょう。
・受動喫煙の環境
・人の出入りが多い場所
・風邪をひいた乳幼児と兄姉(学童、幼稚園児)との接触
タバコの煙は、子供の気道を刺激するため、咳症状が悪化し、喘鳴を起こしてしまいます。
また、感染後の症状悪化だけでなく、健康時にも気道の状態を悪くしてしまうため、感染するリスクも高くなると考えられます。
感染しやすい乳幼児の寝室は他の風邪をひいている家族と別にした方がいいでしょう。大きな子ども、大人は風邪程度で済むため、RSウイルスが感染していても自覚症状が出ないことが多いためです。
RSウイルスに感染すると、喘息を発症しやすいという報告がありますので、やはり、予防が第一です。