循環器内科 望田哲司
当院では2014年より入院患者さんを対象に心臓リハビリテーションを開始し現在もこれを継続しています。
このたび、2017年10月より心臓リハビリテーション外来(毎週火曜日午前・金曜日午後)を開設し、入院中に行っていた心臓リハビリテーションを通院で継続できるようになりました。
心臓リハビリテーションとはあまり聞きなれない単語かと思います。
心臓リハビリテーション(略して心リハ)とは、自分の病気のことを知ることから始まり、患者さんごとの運動指導、安全管理、危険因子管理、心のケアなどを総合的に行うものです。
医師、理学療法士、看護師、薬剤師、臨床心理士など多くの専門医療職がかかわって、患者さん一人ひとりの状態に応じたリハビリプログラムを提案、実施します。
心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、開心術(心臓病の外科手術)後、大動脈解離や大動脈瘤などの大血管疾患、慢性心不全(EF≦40%あるいはBNP≧80pg/mlあるいは最高酸素摂取量≦80%のいずれかに該当するもの)、間欠性跛行を呈する末梢動脈閉塞疾患の患者さんすべてが対象です。 心臓病の治療というと外科手術、経皮的冠動脈インターベンション、経皮的心筋焼灼術などのカテーテル手術、ペースメーカの植え込みや複数の薬物療法を思い浮かべる方が多いかと思います。 当院でも循環器内科、心臓血管外科でこれらの治療が積極的に行われています。 |
これらの治療が発達する以前、心臓病患者はとにかく安静にすることが大事であり、心臓に負担がかかるために心臓病患者が動くことはよくないことだと考えられていました。
そのため一度心臓病を発症すると患者さんは長期臥床を強いられ、退院時には著明な筋力低下を起こし寝たきりになってしまうことも珍しくはありませんでした。
その後、過度の安静による弊害が見直され、運動療法の導入により少しずつ臥床時間が短縮されました。
さらに技術の進歩に伴い虚血や不整脈を解除すること(カテーテル治療や外科手術を行うこと)で症状を早期に改善しさえすれば臥床時間を短縮させることができ、心臓リハビリは不要と考えられた時代もありました。
日々の忙しさの中でつい疎かになりがちな生活習慣の管理ですが、心臓リハビリテーションに参加することで運動耐容能の改善以外にも様々な効果が確認されています。
・虚血性心疾患では総死亡率の減少、心事故回避率の上昇、狭心症発作回数の減少など
・開心術後では総死亡リスクの減少や早期の運動耐容能の改善など
・慢性心不全では心不全再入院回避率の上昇、心事故回避率の改善、無事故生存率の上昇、左室拡張能の改善、血管内皮機能の改善、交感神経系の抑制、炎症性サイトカインの低下など
が統計学的に示されています。
当院では退院前に該当疾患の患者さんに心臓リハビリを案内し、参加を希望された方にはまず、心肺運動負荷試験(CPX)を行っています。
十二誘導心電図と呼気ガス分析機を装着し自転車エルゴメータ負荷を行うもので、患者様個々の嫌気性代謝閾値(AT)や運動耐容能などを評価します。
検査は技師・医師の立ち合いで行います | (写真1)運動耐容能の低下がある場合にはそれが心ポンプ機能の低下によるものか、呼吸機能の問題によるものか、筋力低下に伴うものかなどの鑑別も可能です。 また、AT以下の強度では有酸素運動ができ、これが動脈硬化性疾患には有効であるとされています。 このCPXの結果をもとに運動処方を作成します。 |
理学療法士・看護師・医師が一緒に治療にあたります | 実際の運動療法は当院6階のリハビリテーション室において集団療法のかたちで行っています。 (写真2)理学療法士の指導のもと、トレッドミルや自転車エルゴメータによる有酸素運動だけではなく筋力トレーニングも行います。 その間、担当医師、担当看護師が心電図モニターを観察したり、日常生活の相談などにも応じたりしています。 希望があればその都度面談や栄養指導、薬剤指導なども行っています。 |
このように、メリットの多い心臓リハビリテーションですが、残念なことに山梨県は全国でも1, 2 を争う後進県です。県内の病院で、これが通院で行われている病院は甲府市内の2病院のみです。
遅ればせながら当院でも運営を開始しましたが、峡東地区では未だ唯一の施設です。
超高齢化社会を迎え今後も動脈硬化性疾患は増加が続くと予想されます。
虚血性心疾患や慢性心不全の再発予防、運動耐容能の改善に対して心臓リハビリテーションの有用性は極めて高く、病状ならびにQOLの改善に大きく貢献できる治療であると考えております。