▼本文へ

▼基本メニューへ

▼便利メニューへ

▼総合メニューへ

このページを印刷する山梨厚生病院ロゴマーク

▲このページの先頭に戻る

山梨県薬剤師会誌 創刊号 2011.10 朝倉寛達

 

普及する簡易懸濁法と期待される薬剤師の役割

~ 簡易懸濁法の誕生秘話および当院での実施状況 ~

 

朝倉 寛達

 

山梨厚生会 塩山市民病院 薬局

 

 

塩山市民病院(以下:当院)は、一般病床180床(うち療養型病床60床)で、内科・消化器科・循環器科・呼吸器科・神経内科・小児科・外科・整形外科・脳神経外科・皮膚科・泌尿器科・眼科・耳鼻咽喉科・婦人科・リハビリテーション科の診療科目をもつ中規模病院である。
当院では、平成18年4月より全病棟及び外来患者、近隣施設の入所者の委託調剤において、薬剤が経管的に投与される場合は、簡易懸濁法による調剤方法で対応している。
簡易懸濁法とは、倉田なおみ氏(昭和大学薬学部准教授)により発案された方法で、薬を経管チューブから投与する場合に、錠剤・カプセルを粉砕せず、そのまま温湯に入れ崩壊懸濁させたあと、経管投与する方法である(図1)。

 

 

錠剤・カプセル剤を55℃の温湯20mLに入れる

↓ 10分間放置

薬剤が崩壊した懸濁液を経管チューブ投与

[図1]簡易懸濁法の概要

 

 

その簡易懸濁法開発のきっかけは、氏いわく看護師からの訴えだという。その内容とは、『1997年のことである。看護師から「胃ろうが詰まってしまったという必死な様子の電話があった。胃ろうの造設を嫌がる患者をその担当看護師が1カ月かけて説得して、ようやく胃ろうを造設した4日後の出来事だった。その看護師から、ある細粒剤が胃ろうのチューブをいつも詰まらせることを聞いた。その細粒剤は、同じ成分の錠剤の粉砕処方が出たときに、いつも疑義照会をして変更していた薬剤で、錠剤をつぶすなら同一成分の散剤に変更するという慣例的に行ってきたことが、閉塞の原因であったことを知って愕然とした。
そして、他の散剤は大丈夫なのか?カプセルに充填された顆粒剤は?と次々と疑問がわいてきて、これが契機となり、チューブ閉塞に関する実験を開始し簡易懸濁法が誕生した。』というものである。
簡易懸濁法は、このような閉塞事例の予防策となる以外に、従来の粉砕調剤に関する数々の問題点を解消できる経管投与法である(図2)。

 

 

 
<簡易懸濁法の利点>
●投与前までそのままの剤形のため、光・温度・湿度による物質化学的な安定性に優れている
●粉砕混和による配合変化が起こらない
●粉砕による調剤者と投与者の薬剤による吸引被爆を防止することができる
●粉砕時・投与時のロスを少なくすることができる
●粉砕不可だった薬剤も投与可能になるものがあり、薬剤選択の幅が広がる
●錠剤の方が扱いやすく、中止や変更時の対応が容易になる
●簡易懸濁法の調剤時間は粉砕調剤にかかる時間よりはるかに短い
●薬剤の懸濁液のチューブ通過性により適否を決定しているため、薬剤による経管チューブの閉塞を
 最大限に予防できる
 

[図2]粉砕法と簡易懸濁法の利点比較

 

 

 

簡易懸濁法は、図2のように多くの利点をもつ方法であるため、当院でも導入することとなった。また、全国の医療施設においても、急速に普及している理由だと思われる。2006年には、「第十二改訂 調剤指針」で本法の項目が新設されている。

 

当院での簡易懸濁法の実施状況(平成23年8月現在)は、入院患者では経管投与患者約40名(約100種類の薬剤)に行っている。なお、経口投与のため粉砕調剤を行っている患者は、約3名である。
当院では、医師は処方時に簡易懸濁法の指示と経管チューブの太さ(Fr)を記載している。そして、処方薬の簡易懸濁法の適否を「内服薬 経管投与ハンドブック 第2版(じほう)」(図3)で判断している。掲載のない薬剤は、「簡易懸濁法研究会」ホームページ内にある「簡易懸濁可否情報共有システム」で検索する他、この研究会にメーリングリストで質問して情報を得ている。これらのシステムやメーリングリストは、研究会に入会することで利用できる。しかし、いずれでも適否の判断が付かない場合は、他の適合薬剤に疑義照会をして変更している。しかし、まれに医師の希望が強い場合には、標準的な崩壊懸濁試験と通過性試験を参考に自ら試験を行うこともある(詳細方法は「簡易懸濁法Q&A Part1 基礎編(じほう)」を参照)。

 

 

 

分類・
一般名
商品名・
会社名
含有量・
剤皮
性状・
製剤特徴酸・
アルカリ
の安定性
簡易懸濁法 粉砕法 備考

最小
通過
サイズ

(約55℃) 

破壊

粉砕

カプ
セル

5分 10分 5分 10分
塩酸
サルポグレラート
アンプラーグ
(三菱
 ウェルファーマ)
100mg
[フィルムC錠]
 
8Fr. × ×     152.2℃.
多めの水で
洗浄.苦味 

  × ×  
塩酸
チクロピジン
パナピジン
(サンド)
100mg
[フィルムC錠]
 
8Fr. ×           205℃

  ×      
パナルジン
(第一製薬)
100mg/g
[細粒]
コーティング
細粒,
pH:3.5〜4.5

18Fr.            

散:1g-2g.
205℃(分解) .
マクロゴール
6000含有 


         
パナルジン
(第一製薬)
100mg
[フィルム
C錠]
pH:3.5〜4.5
8Fr. × × ×   205℃(分解).
マクロゴール
6000含有.
苦味・刺激性
         
パラクロジン
(三和化学)
100mg
[フィルムC錠]
pH:3.5〜4.5
8F × × ×   205℃.
苦く刺激性 

  × × ×
ベラプロスト
ナトリウム
ドルナー
(東レ=
 アステラス)
20μg
[フィルムC錠]
pH:8〜8.2
8Fr.      

湿
205〜208℃.
マクロゴール
6000含有 
         
プロサイリン
(科研)
20μg
[フィルムC錠]
 
8Fr.      

湿
205〜208℃.
マクロゴール
6000含有

       
プロドナー
(沢井)
20μg
[フィルムC錠]
 
8Fr.      

湿
205〜208℃

       
ベラストリン
(大正製薬)
20μg
[フィルムC錠]
 
8Fr.      

湿






 

       
リマプロスト
アルファデクス
オパルモン
(小野)
5μg
[裸錠]
圧縮錠
8Fr.      

湿
260℃
         

[図3]内服薬 経管投与ハンドブックより抜粋(簡易懸濁法の適否の判断に用いている)

 

 

 

当院での薬剤の調製方法及び投与方法の概略は図4にまとめた。詳細な手技は簡易懸濁法研究会ホームページを参照していただきたい。なお、当院で使用している調製器具は、操作の簡便さやコスト削減の目的により、H22年12月よりカテーテルチップから懸濁ボトル(シンリョウ社製)に替えて行っている。また、55℃の温湯の準備は、病棟の混合水洗の湯側から出てくるお湯(測定値:58℃前後)で行っている。(55℃の温湯は、「熱湯2:水道水1でも作ることができる。)

 

 

<当院での簡易懸濁法による経管投与の手順>
1.懸濁ボトルに薬を入れる
2.55℃の温湯を作り、約20mL入れる(図4-①)
3.撹拌し10分間以上放置する
4.再度よく撹拌し、懸濁ボトルを経管チューブに接続して注入する(図4-②)
5.逆流防止のため、チューブをロックしてから、懸濁ボトルを抜く
6.懸濁ボトルに水を約20mL入れ、再度接続して経管チューブ内と懸濁ボトル内の残薬を水で流す
7.洗浄

[図4]薬剤の調製方法および投与方法

 

 

 

懸濁ボトル01 懸濁ボトル02
[図4- ①] [図4- ②]

 

また、病棟導入において、薬剤の調製・投与を行うのは看護師であるため、看護師の意見を重視した。約一か月間の試用期間をおき、アンケートを実施したところ、「カプセル殻が残る。溶けにくい薬がある。操作に慣れが必要。」等の意見があったものの、温湯準備や崩壊時間を置くこと以外に、薬剤の調製法は粉砕時との大差はないため、強い反対意見はなかった。むしろ、「チューブが詰まらなくなった。何の薬かがわかる。薬をこぼしてもダメにならないですむ。直接、容器内で懸濁させるので簡単。」等の簡易懸濁法に対する利点を支持された。また、業務改善の機会となり、病棟のラウンド時間も増え、ケアにかかわる時間も増えたという意見も聞かれた。しかし、従来からの問題点であった、懸濁してから投与するまでの放置時間が長いという点は、朝の投薬のマンパワー不足の時間帯では、依然として改善が難しい課題となっている。
そして、薬局業務の変化は、調剤時間の短縮が一番大きい。粉砕調剤と簡易懸濁法に必要な調剤時間を比べると、簡易懸濁法の調剤時間は粉砕調剤にかかる時間の2~3割で済む。粉砕調剤に費やされていた7~8割の時間的なゆとりが生まれ、病棟業務(薬剤管理指導業務、配薬カートのセッティング)、抗がん剤ミキシングなどにかかわることができている。また、散剤調剤台の使用頻度が低くなるため割り込み調剤も減り、スムースな作業が可能になるとともにリスクの軽減につながっている。
現在、粉砕や簡易懸濁法の適否を製造企業に問い合わせをしても、「承認外の使用方法になるため勧められない」と一律の返答である。ゆえに、私たち薬剤師は、現場の要求に答えるために、製造企業から得られた製剤の各種条件下における安定性試験結果等をもとに、個々に判断している状況だと思われる。
しかし、これは物としての安全性の判断であり、医薬品の剤形を壊してしまう粉砕調剤や簡易懸濁法においては、生物学的同等性という点で確証をもてず加工調剤を行っている。
私たち薬剤師は、このような医療現場に必要不可欠な情報が不足していることを、企業や厚労省に働きかけていかなくてはならない。簡易懸濁法においては、先に述べた簡易懸濁法研究会の活動の一つとして、添付文書に適否ならびに薬剤を55℃の温湯に崩壊した場合の薬効の変化の有無、また配合変化について記載されることを目標として働きかけている。
簡易懸濁法研究会は、薬剤師・大学・企業等多種にわたる会員(現在約350名:県内登録4名)で、簡易懸濁法に関する疑問・質問や意見の情報交換をする場であり、医療現場での問題点の抽出や共同による研究発表も行っている。また、「◯◯がうまくいかない」など、悩みを抱える医療関係者の駆け込み場所という側面ももっている。
簡易懸濁法は、粉砕法の問題点の多くを解消することができる方法である。さらに多くの研究によって、より安全で確実にできる経管投与になることとともに、普及していく際には簡易懸濁法が正しく理解され、正しく導入されることを願いたい。

▲このページの先頭に戻る